「18番目」の分野 『NPOで働く』 工藤啓著/東洋経済新報社〈書評〉


■NPOの17の活動分野

新聞好きの僕にとって、今日のような新聞休刊日はつらい。でも今日は、読むものがあった。
それは前回当ブログでもとりあげた工藤啓さんの本http://toroo4ever.blogspot.jp/2011/07/npo12.htmlだ。今日の午前中は、ゴロゴロと横になりながら、同書の残りを読みきった。

3章は「NPO法人育て上げネット」のスタッフ紹介(を通したNPO経営の諸テーマの提示)で、4章は協力企業の紹介(を通した、現在のNPOが抱える企業との連携問題)だ。
5章は、NPO活動にさまざまなかたちで協力したいと考える読者=市民=個人に対しての実用的アドバイス(その裏には「これからの市民活動の考察・提案」という側面も見え隠れする)、という構成になっている。

前回紹介した1・2章も合わせると、200ページちょっとの本にしては濃密な内容で、青少年自立支援に興味がある方だけではなく、21世紀の日本の幅広い意味での市民活動(家族・経済・政治・地域等、さまざまな意味がそこには含まれる)に関心がある方には何らかの示唆を与えることになるだろう。

前回は、ひきこもり・ニート支援における文脈の中で著者を位置付けてみた。それほど的外れでもなかったなあと今日も思うが、今日すべてを読みきってみて、「日本と青少年自立支援」みたいな大きなことも考えたりした。

本書の172ページに、特定非営利活動促進法に掲げられる17の活動分野が紹介されており、NPO法人育て上げネットはこの17分野の中で、(2)の「社会教育の推進を図る活動」、(11)の「子どもの健全育成を図る活動」、(15)の職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動、(17)「前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡・助言又は援助の活動」を選択しているそうだ。

僕が代表を務める淡路プラッツでも、そういえばNPO申請の際にこの17項目の中からプラッツの活動に重なるようなものを複数選択したなあと懐かしく思い出したが、プラッツも、確か育て上げネットの選択とそれほど変わりはない。青少年の自立支援を行うNPOはまあそんなものだろう。
と思ってそのページを何気なく読み飛ばし、そして「おわりに」までたどり着き、ああなんとか読み終えました、工藤さん・コネクションズ大阪のT所長献本ありがとう、と思いながらうとうとし始めたのであるが、なんとなく何かが残った。

■「高齢化社会を支える人たち」を支える仕組みづくり

それはなんだろうと思いながら昼食をとり、こうしてパソコンに向かいながら、やっとわかった。
そうか、本書で並べられている特定非営利活動促進法の17活動分野の項目の中に、「若者」や「青少年」という単語がなかったからだ(「子ども」はあるが)、とやっと気づいたのであった。

僕はこの頃、超高齢化社会とは、超高齢者の生活支援だけを意味するのではなく、「『超高齢化社会』を支える人たち」が超高齢化社会を支え続けることができるような仕組みづくり・支援体制づくりのこどたったのだ、と日々痛感している。

そんな簡単なことに今頃気づいたのか、と笑われそうだが、今頃気づいたのだから仕方がない。ここ数年本格的に超高齢化社会が始まったと実感して初めて、気づいた(たとえば47才僕と70才母親の新しい関係などもその社会の一風景だろう)。
繰り返すが、超高齢化社会とは、「『超高齢化社会』を支える人たち」を支える仕組み・支援体制がメインテーマになる社会だったのだ。

そして、その「支える人」とは、つまりは、「若者」や「青少年」を指す。
若者や青少年が、年金の支払だけではなく、生活全般にわたってそれぞれが充実した人生を送れるようになって初めて、高齢者も高齢者自身の人生が安心して送れる。

この裏にある思想的議論を追求する時間は、おそらく過ぎ去った。現在の年金制度が少しずつかたちを変えながら続くと仮定して、制度予測していくことしかいまの我々にはできない。

そう考えると、これからの社会では、「若者」や「青少年」のあり方がものすごく重要になってくる。
同時に、これからの社会では、破綻寸前のシステムを補ったり穴を埋めたりする存在がどうしても必要になってくる。
それはおそらく、新しく作られるものではない。すでに作られてはいるが、まだ未確定なもの。人々から期待されてはいるが、残念ながらまだその位置づけと役割が不明確なもの。

■NPOで働くことが普通になる

それがつまりはNPOだと僕は思う。
その意味で、「NPOで働く」ことはこれからの世紀においては普通の選択肢の一つとなり、そこで働く人達とそこから生まれ出る仕組みと結果が少しずつ世の中を動かしていくと思う。

これからの社会とは、超高齢化社会のことであり、超高齢化社会とは「若者」や「青少年」が豊かに生きて初めて成り立つ社会のことを指す。
ただ残念ながら、現在の日本社会では、「若者」や「青少年」の将来は不確定だ。それを安定させる法的装置のひとつが、特定非営利活動促進法なのではあるが、その17分野の中に、「若者」「青少年」はない。

だから、「18番目の分野」こそが、日本の今世紀の鍵を握る。その18番目の分野をフォローする主たる存在がNPOだ。だから、「NPOで働く」ことが当たり前の社会にならなくてはいけない。★