凸凹とトラウマ 『発達障害のいま』4章〜終章 杉山登志郎/講談社現代新書

僕が読んだ発達障害本のなかでは決定版

■ディックの引用も

前回(2011年8月18日付ブログ)とりあげた杉山さんの本を完読した。最近の僕には珍しく、チェック入れまくりの読書だったのだが、これは子ども若者支援者には必読だろう。


1章2章は医学的解説が多いのでかなり読みにくいが、流し読みでもいいので、何とか乗り越えよう。また、5章は、眼球運動を用いたちょっと怪しいっぽいが実は医学界では超話題の“EMDR”の解説がメインなので、敬遠する人もいるかもしれない。だがそこも何とか乗り越えてみよう。

後半は、精神障害と発達障害の関連をわかりやすく解説してくれているので、1・2章や5章よりははるかに読みやすいものの、そこは医者の文章だから、やはり微妙に読みにくくはある。
でもそこも何とかクリアし、とにかく最後まで読んでみよう。

というのも、この本を1冊読むだけで、最新の発達障害に関する知見がすべて頭に入ることになるから。ちょっと読みにくいけど、著者の患者/患児に対するやさしさは行間から溢れまくっているし、たとえばフィリップ・K・ディックのようなSF作家からの引用がさりげなくされていたりして(p146)、単なる「医者の本」でないことはすぐにわかる。

また、よくある「医者の書いた思想本」でも決してないからご安心を。タイトル通り、愚直すぎるほど、まさに「発達障害のいま」について徹底して書かれている本だ。


■「トラウマ」の導入

このように一冊まるごと最新の発達障害支援/治療に書かれた本書なのではあるが、言いたいことはたいへんシンプルだ。それは以下の3点に絞られる。

①次回のDSMⅤ(アメリカ精神医医学の診断基準)において、広汎性発達障害は自閉症スペクトラム障害に変更されるが、そうした「障害レベル」の発達障害と、その数倍は存在するといわれる「素因レベル」のあり方を区別して捉える必要がある。
通常、素因レベルは障害レベルの5倍は存在するといわれる。本書はこの素因レベルに対して、「発達凸凹(デコボコ、と読む)」と名づける。

②自閉症スペクトラム障害には「タイムスリップ現象」(ここでディックの本が引用される)と呼ばれる、暴力的とも言える記憶の突発的な再現がみられる。
この、障害特有のタイムスリップ現象と、障害に起因する二次障害としてのPTSDによるトラウマ(心的外傷)が重なることにより、当事者は激しくゆさぶれ、傷ついている。

③誕生以来100年を越えた精神医学/臨床心理学は、この「発達障害とトラウマ」という複合したテーマによって、その学問体系が大幅改変されていくだろう。

よく考えてみれば、フロイトの5大症例の「ドラ」や「狼男」にしても幼少期のトラウマが最大テーマであり、フロイト初期のヒステリー研究もPTSDへの対応から始まったことなどを考えると、精神医学/心理学とトラウマはその誕生期からセットであった。
杉山さんの言うように、ここに凸凹(素因レベル)も含んだ発達障害を含んで考えると、精神医学そのものの改変だけにとどまらず、ヒトに関するあらゆる問題へと拡大していくかもしれない。

まあ、大きな話題はさておき、少なくとも子どもと若者の支援をしているすべての人にとって必読の本が久しぶりれに現れた! 必読なのに新書で760円。新刊なのでまだ本屋に平積みしています。とにかく読みましょう。★