ということは、NPOこそがイノベーションを生む? 『イノベーションとは何か』池田信夫/東洋経済新報社

最近の当ブログは、支援事業の提案ばかりで、夏頃までさかんに書いていた書評をずっと休んでいた。この間、当たり前だが本は読んでいる。けれども、書評にとりあげるまで至らない支援や経営の実践本ばかりなので、ブログでは扱わなかった。
それにしてもこの頃は、哲学や文学関係の本を読まなくなった。唯一、津村節子さんの『紅梅』という私小説(亡き夫・吉村昭の最後の日々を描いたもの)をゆっくりと読んではいるが、読了までもうちょっとかかりそう。

そんななか日々を過ごしていると、当ブログでもよく言及する池田信夫さんの新刊が出たことを発見したので、さっそく買って少しだけ読んでみた。まだ半分程度だが、たぶんこの本で一番主張したいことは、本のはじめのほうに書かれていると思うので、もう書評してしまおう。

この本のポイントは、以下の一行に尽きると思われる。それは、

イノベーションとは、第一義的には経営革新である。(p18)

という一節だ。イノベーションというと、最近ではiphoneやipadのアップル、アンドロイドOSのグーグル等が思い起こされる。僕は技術のことはよくわからないけれども、著者によるとアップルやグーグルの技術はそれほど革新的なものではないらしい。
確かに、アップルマニアの僕がみても、デザインはそこそこ格好いいものの、アップルの製品は基本的に「水平分業」の寄せ集めではある。

やはり、アップルやグーグルのすごさは、いろんな本でも解説されているとおり、そのビジネスモデルの斬新さなのだそうだ。itunesやグーグルアドセンスなんかがその具体例なんだろうなあ。

池田さんは「経営革新」「ビジネスモデル」等の経営用語で書いているが、哲学好きの僕は、これらビジネス用語を哲学用語というか文化系用語に置き直し(かなり強引だが)、

イノベーションとはコミュニケーションの変革のかたちである

あるいは、

イノベーションとは新しいコミュニケーション・システムである

みたいな感じに格好良く表現したいが、哲学好きでなければ何のことかわからないので、それほど深入りはしないでおこう。
つまり、イノベーションとは新しい製品を開発することではなく、新しい「仕組み」をつくりあげることなのだ。仕組みとは言い換えると、「人と人とのつながり」のことであり、イノベーションを言い換えると、「新しい人と人とのつながり」を指す。

池田さんみたいな博識で説得力のある(多少強引だが)人に、イノベーションとは技術革新ではない、つまり「新しい製品をつくることではない」と断言されると、僕のようなNPOの人間は嬉しくなってしまう。
なぜかというと、大部分のNPOは第三次産業であり、しかも、モノも大量に売らないし食べ物もチェーン化して提供しないし金融商品も扱わない、そして医薬品も扱わず介護商品も直接提供しない。
現在日本にあるNPOの大部分は、“人の力によって人を支える”ある意味「純粋なサービス業」だと思うからだ。

イノベーションというと、どうしてもipodやiphone、古くはウォークマンなどを僕は思い出し、NPOの「泥臭い」仕事とは対極にあるものだとずっと思ってきた。
けれども、日本社会、いや世界のこの変革の時期には、NPOのような柔軟な存在がかなりの鍵を握ると思っていて、そうした意味ではそこにイノベーション的なものも感じてしまう。

イノベーションにはおそらく技術的なものが絶対条件なんだろうが、世界はNPO的新しさを求めている。このNPO的新しさはいわゆる技術ではないが、ある意味イノベーションではないのだろうか。
そんなことをここ数年、大病を間に挟みながらも、僕はずっと考えてきた。それは解決することなく、ずっともやもやと僕を覆ってきたものだった。

それが、この本を読んで何かすっきりした。あ、そうか。イノベーションは技術ではないんだ。それはまずは経営革新であり、新しいビジネスモデルなのだ。僕的に言い換えると、それはつまり、新しいコミュニケーション・システムなのだ。
となると、それは、第一義的にNPOの出番である。ということは、わりとそうしたことに不器用ながらも取り組んできた淡路プラッツが食い込む余地がある。

だが実はプラッツは、今のところ、「新しい(支援)技術はあるが新しいビジネスモデルを提示できていない」典型的な(まるでソニーのような……おっと、プラッツとソニーを比べてはいけないな、ごめんなさい、ソニーさん)日本企業・団体で留まっているということも事実だ、残念だけれども。

そんなことを考えていたら、昨年僕の病気で頓挫した「日本青少年自立支援学会」こともむくむくと沸き上がってきた。まあこの学会なんかも、今回の文脈でいうとある意味「新技術」に含まれるんだろうな。いや、新しい支援技術の発表の場でもあるから、これはある意味「支援itunes」みたいなものか。
まあ、そんな学会のことも含めて、すべてを(病気再発に超気をつけて)推し進めていきます。★