■6名による濃密な発表
昨日、淡路プラッツ20周年記念シンポジウム第3弾「発達障害を伝える責任〜告知と提示〜」が満員御礼で開催された。そこで展開された濃密な議論はアンケートなどを見ても概ね好評で、ここでは「ガイドライン」を中心に簡単に報告しておこう。
なお、「提示」の意味については、当ブログのこの記事「告知ではなく提示〜suggestion〜」http://toroo4ever.blogspot.jp/2012/07/suggestion.htmlを参照願いたい。
発表者は、淡路プラッツが主催する「発達障害と自立を考える研究会」の4人のメンバー(プラッツ外の専門家で構成)に、プラッツスタッフ2名(代表の僕と、事業責任者・辻田)が加わった6名だった。
シンポジウム前半はこの6名が各々分担して以下の3点を発表した。
①「生活困難者・障がい者就労支援の現場から〜伝えることの倫理」
②「伝えない理由/私の伝え方」
③「カテゴライズではなく特徴を知ること/カテゴライズという暴力性」
それぞれ15分×6名の濃密な発表がノンストップで行なわれた。ちなみに僕は最後の「カテゴライズという暴力性」担当で、ふだんこうした場所ではほとんど披露しない、哲学タームと哲学者の名前(暴力・他者・責任等、哲学者はデリダやサイード)を全開して発表した。
つまり、名付けとは二重の意味で「暴力」であり(言語化とカテゴライズ化)、マイノリティの創設(ここでは発達障害の創設)はマジョリティ(一般市民)の安定装置として機能しているということだ(発達障害を創設することで市民は「普通」でいられる)。
加えて、カテゴライズの暴力(発達障害の伝達〈告知であれ提示であれ〉)が行なわれる瞬間は、まるで「魔法」のような瞬間であり、根源的にはその行為と瞬間は誰にも説明できないということも語った。
そうした根源的メカニズムをわかったうえで、支援者はあえて「告知」あるいは「提示」を行なわなければならず、それが根源的「他者への責任」ということになる。
■パワーポイント資料よりテキストの抜粋
後半は、研究会でまとめつつある「『提示』のためのガイドライン案」を辻田が発表した。以下、パワーポイント資料よりテキスト部分をコピーしてみよう。
★ガイドライン作成の注意事項
①あくまでも「案」であること
②「告知(診断)」が必要かどうかを判断するということ自体が難しい
③受診につないでも医師の診断がつかない場合もある
④自分たちの見立てが間違うこともある
⑤診断名まで伝えるか、特徴を伝えることまで、とするかによって、伝える相手や伝え方が違う
※「発達障がい」を提示することは、とても主観的な判断となる可能性をはらんでいることを、忘れてはいけない
★ガイドラインの意味
①「提示」の中で、不用意に傷つく人がいないように
②「発達障がい」と提示することで、そこに伝えた側の責任が生まれることを明確にする
③「発達障がい」と提示することの暴力性・権力性を明確にする
④それでも、「提示」することの責任を確認する
★なぜ伝えるか〜why〜
①本人が困っている現状の打開のため
→伝えることで、本人がブレークスルーできるか
②周囲が困っている現状の打開のため
→本人の力を信じ、正当に評価してくれるか
③医師や専門機関につなぐ必要がある場合
(「告知」作業につなげるため)
★伝えるタイミング〜when〜
①伝える側が多軸的根拠を持っている
→生活歴・これまでの経緯などを踏まえている
複数人での見立て、発達障がいの特徴のいくつかが符合
②当事者が困っている
→努力してもうまくいかないことが続いている
③当事者と伝える側の間に「信頼関係」ができている
→何を根拠に「信頼関係」と考えるか
★誰が、誰に伝えるか〜who〜
●誰が
●医師
●専門家(カウンセラー、ワーカー、ハローワーク職員、福祉職員)
●一般(会社の上司、教師、学校関係者)
●周囲の人(親戚、友人)
●誰に
●家族 ●本人 ●周囲の人
★どこで伝える〜where〜
・個人情報が守られる
・伝えられる側が安心できる
・じっくり話ができる
★何を伝える〜what〜
●医師・専門家が伝える場合
①困っていることやその整理
②提示(障害名・特性)
③情報提供(支援機関や将来のイメージ
●一般・周囲の人が伝える場合
●困っていること ●情報提供
★どのように伝える〜how〜
●相手の気持に寄り添う(障害名より生きづらさ)
●伝える理由を明確にしてから伝える
●伝えっぱなしにしない。定時後、支援を継続する(「その後」の始まり)。
★その他
●発達障害やそれにまつわる提示で生じる関係性の変化・結果を引き受けることが、責任である。
●他機関との連携
提示したあとに信頼できる機関につなげることができる。
「土台」をつくっておく(医師・支援窓口)
連携できる機関の見通しなしに伝えないこと
以上、提示の実質的山場は「何を伝える〜what」(医師・専門家が伝える場合)②提示(障害名・特性)なのだが、その前後にこの程度は準備しておく必要があるということだ。
これをもう少し煮詰めたうえで、来年中には「発達障害、その提示のためのガイドライン」決定版を発表したい。★