「企画書」を忘れることがイノベーションになる〜『辺境から世界を変える』書評

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参加者は現在17名!! 目標の20名までもう一息です。
Facebook中心の集客は今回は初めてなだけに、当日キャンセルも続出するのでは、などと強迫観念に迫られているのですが、まあ考えても仕方ない。
開催まであと1週間、よろしくお願いします〜

今回は、主催者のひとり、加藤さんの本を遅まきながらプチ書評してみました。

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『辺境から世界を変える〜ソーシャルビジネスが生み出す「村の起業家」』
加藤徹生著/ダイヤモンド社

■「企画書で決まっているから」

まあプチ書評というよりは、同書を読んでいる間、いくつかのことが偶然にもシンクロし、なんとなく「上段に構えた」イノベーションというよりは「現場からの」イノベーション」がつかめそうになったので、それを書いてみる。

それはなんのことはない、とにかく「現場で粘ってみる」ということだ。

我々は行政の委託事業のなかで、なんとなく流されて仕事してしまうことがある。
それはたとえば、「◯回の講義やワークショップを行なう」という小さな事業であれば、単にその決められた回数のみの講義やワークショップを行なってハイ終わり、といった「流れの中の」仕事を指す。

また、たとえば、「2ヶ月間で8回就労実習体験を行なう」という企画書が通り、それを実際に行なうことがある。
ニートの若者を連れて8回の実習をこなすのであるが、当たり前だが9回目の実習は行なわない。
それがどんなに順調に進んでいたとしても、また9回目を行なうことで新しい展開(若者の成長や実習先とのより深まる関係性)が見えていたとしても、たいていは企画書通りの8回で終了する。

ほかにたとえば、大学中退予防事業のなかで、5回のキャリアカウンセリングを行なうという事業があるとする。
そのなかでよくあることだが、4回目まではクライエントの学生と関係は深まらなかったものの5回目のラストで「本音」が飛び出したりする。
が、よほどのことがない限り、事業執行者(つまり我々NPO)は、契約通りの5回でそのカウンセリングを終了する。

なぜそれらの事業を終了するのか。
それはつまり、「企画書で決まっている回数」だからだ。

■ルーティンに苦悩するツィート

僕はつい最近まで、このような「企画書で決まっていること」は仕方ないと諦めていた。が、諦めないスタッフが(プラッツには)おり、時々彼らと議論になる。

その議論の中身というよりは、このような企画書をはみ出て「深く粘る」発想こそが何かを生むのでは、とこの頃よく考える。

あるTwitterの書き込みで、「毎年同じ事業が行なわれ、それほど成果もなく同じように終わっていくことの虚しさ」について書かれていた。
これが僕であれば、「まあ企画書で決まっていることだから仕方ない」とあっさり諦めているところだ。
が、そのそのツィートは毎年のルーティンに苦悩し、何かできないかと自答している。

そんな自問自答に対して、つい最近まで(正直に言うと一昨日まで)僕は、「企画書でそうなっているんだから仕方ないじゃないか」と思っていた。
けれども、本書『辺境から世界を変える』のこんな言葉を読んで、何かが呼び覚まされた気がしている。

「セルコ社の目的は市場を深く、さらに深く耕していくことだ」「より貧しい人々の生活に貢献するには、彼らをより深く知るしかない」(p18)
「丁寧な提案を行ない、彼らの生活の課題を聞き出し、それに応じた価値ある提案を1つずつ行なっていく」(p16)

■きちんと向き合うことがイノベーションになる

本書の白眉は、5章「イノベーションを通じて貧困の連鎖を断ち切る」であり、そこでの4つの「業界のデザイン」戦略(①スケールアウト型の展開、②情報技術を武器に業界の構造を逆転する、③アライアンス、④技術革新)だろう。

5章だけ立ち読みすれば本書のエッセンスは吸収できる。が、本書の読みどころは4章までの丁寧なルポルタージュにあると思う。
そのルポの中に、我々にとってのヒントがたくさん眠っている。

僕は単純だが、「現場で『深く掘っていくこと』がイノベーションに直結する」ということを発見した。
イノベーションは何も新製品を開発することだけではない。誰もが「企画書」に縛られ諦めていることにあえてこだわり、「丁寧な提案を行ない」「課題を聞き出し、それに応じた価値ある提案を1つずつ行なっていく」ことが大きなイノベーションとなる。

それであれば、多額の費用をかけて新製品を開発する必要はない。
つまりは、目の前で困っている人にきちんと向き合えば(多少の団体持ち出しコストが一時的にかかるかもしれないが)、それが立派なイノベーションとなり、利用者の幸福にもつながっていくのではないか。

変な言い方だが、「企画書」を時に忘れると、それがイノベーションになるということだ。★