サポステ、「サバイバー」を支援する矛盾


■「山場」

タイトルの「サバイバー」とは、虐待やPTSDからの生還者・回復者のことではなく、単に高校中退という一つの関門をくぐり抜けた高校生たちのことを指す。

困難校を中心に、現在、高校生には高校中退という壁が待っている。それは通常の高校では1年生の1学期後半から2学期後半にかけて訪れるという。
高校によっては(2部制等)2年生後半に「山場」があるそうだが、通常の全日制では1年生の早いうちに中退の壁が立ちふさがる。

中退の原因は挙げだしたらきりがなく、また、このブログ記事(新しい孤独〜2013年の子ども若者)で書いたように、階級社会化の中での子ども若者問題の「単独化(これまでのように共通した問題として10代の悩みを語れない)」現象から、なかなか中退の原因を一言で表現することが難しい。

階級社会化が原因の根底にあるのは確かなものの、その原因をたとえば生徒や保護者に集約することなどはとてもできない。
保護者も子どもも、みな懸命に生きている。生きている中で種々の問題が生じてくるが、それを責めることは僕にはとてもできない。

ただ事実として、高校1年の夏前から冬前にかけて、高校中退という壁が多くの生徒達に立ちふさがっている(それをくぐり抜けたものをここでは「サバイバー」と呼ぼう)。

■元気な層を焦点化

それを食い止める、あるいは食い止めることができない場合は「よりよい中退」の道を探るのが、「地域若者サポートステーション」の大きな仕事のはずだ。
が、現在、サポステのこれからのかたちは、いろいろな話を総合して考えると、逆の方向に向かっているように思える。

それは、ひきこもり・ニート層の中でも比較的元気な層に焦点を当て、その層を手厚くフォローして一人でも多く就労させるという道だ。

その比較的元気な層を、「準フリーター」と呼んでもいいし「レイブル(レイトブルーマー)」と呼んでもいい。キャリアカウンセリングや就労実習を経て、短期間で就労(多くはアルバイトだろう)の道を歩める層が実際に存在する。

そのこと自体は喜ばしく、その層が着実に社会参加していくことを願う。
ただ、そうした準フリーター層を焦点化することで、社会参加に時間がかかる層、つまりはニート・ひきこもりの大多数が「潜在化」してしまうという問題がある。

若者の労働資源化を急ぐ政策立案者サイドからすると、このように準フリーター層に絞り込んで支援し、その層に税金と社会保険を支払ってもらうという方針は、まったく正しい。
僕が国の政策立案サイドにいるとすれば、おそらくこの立場を選ぶだろう。

しかし僕は、潜在層を支援する立場のため、準フリーターに絞り込んだ就労支援のみが拡大されることは困る。

■中退の「サバイバー」を支援する矛盾


これからの地域若者サポートステーションは、この準フリーターをメインターゲットとしてサービス提供する方針に変わるかもしれない、とチラホラ聞いたりする。

せっかく今年度、予算を1000万円増加し、その増加した分を学校連携(主として高校連携)に回すことができるようになったというのに、その増加分を、これからは「就労」に絞り込んで支援サービス(セミナー等)を提供していくそうだ(僕はサポステ外部の者なので間違ってたらスミマセン)。

就労に絞り込んだサービスということは、つまりは、高校中退という壁を乗り越えた生徒が主たる対象(3年生、あるいは中退可能性のない生徒を幅広く)ということだ。
高校中退という壁を乗り越えたんだからさらにフリーター化は防ごう、できれば就職・進学しようという支援がこれからのサポステの中心になるとすると、また「潜在化」の問題がひとつ増えることになる。

上述のように、困難な高校生の最大の問題は、1年生時の高校中退の問題だ。が、これからのサポステは、高校中退の問題ではなく、高校中退という山場を乗り切った(つまりは、中退の「サバイバー」になった)生徒の、就労の問題を中心に扱うかもしれない。

サバイバーになるよう(あるいは行き当たりばったりではない中退を選ぶよう)生徒を支援するのではなく、そうした困難な支援のあとの、サバイバーになった、いちばん厳しい局面を切り抜けた生徒を支援する学校連携支援。
現実のサポステが、僕の懸念が懸念で終わり、予想する矛盾に陥らないよう願います。★