蓮井さんへの最後の「恩返し」〜イバショの可視化


■蓮井さんへの「恩返し」

僕が淡路プラッツで働いているのは、蓮井学さんという大恩人がプラッツに誘ってくれたからだ。あれは99年頃だったかな、プラッツも設立して9年くらいたっており(創設期から僕は外部の取材者として関わってきた)、いろいろな方針転換(「待つ」支援から「押し出す」支援へ、等)を経て、ずいぶん人が入れ替わっていた時期だった。

蓮井さんは2000年の5月に病没されるのだが、本人はおそらくまだまだ生きるつもりだったと思う。ただ、プラッツの塾長という立場からはそろそろ引退を考えているようだった。その時に備えてのスタッフ強化の一つとして僕に声がかかったのではないかと思う。

2000年前後は僕自身もたくさんのテーマを抱えていて(プライベートなことや、「臨床哲学」大学院に入ったこと等)、激動の数年間だった。そうした出来事の連なりのなかで決定的なことの一つとして起こったのが、蓮井さんの突然の死だった。

一度は終わりへの道筋に入ったプラッツが何とか続くことになり、僕を含めた数人がその重責を担うことになった。
そこから僕の、蓮井さんへの「恩返し」が始まったのであった。

■恩返しはほとんど終わった

そこから2010年に僕自身が脳出血で倒れるまで、ひたすら走ってきたと思う。おかげさまで(委託事業に頼りっぱなしなので超不安定なものの)売上は10倍になり、一応「来年潰れるかも」状態は何とか脱した(が、再来年やばいかも、という危機感はまだまだあり)。

去年あたり、病気療養中の四国で、「ああ、オレの蓮井さんへの恩返しも終わったんだなあ」とつぶやいた。そのあたりから僕は、本格的に身体が治ってきたと同時に、自分自身の次の目標を探そうと思い始めた。

だがしかし、唯一終わっていないことがあった。それは、蓮井さんが死を賭して臨んだ「居場所」支援というものの有効性について、いまだきちんと言語化=可視化していない、ということだった。

それがこのたび、下の「スモールステップスケールver.3.0」で何とか成し遂げたように思えてきた。前々回のブログでも紹介したが、もう一度下に貼り付けてみよう。


ひきこもり・ニート/スモールステップスケールver.3.0
©2012 NPO法人淡路プラッツ/田中俊英)
支援のステップ
本人のステップ
スモールステップの指標
状態
スモールステップのタイプ
家族
外出
支援施設/
キーパーソン
就労  
1.アウトリーチ支援
1.ひきこもり
①親子間断絶
②外出不可
③外出可
2.生活支援
2.ニート
aイバショと面談
     イバショ:コミュニケーション(トーク)
     面談:心理カウンセリング/プチミーティング
bイバショと面談
     イバショ:生活訓練(調理・清掃等)
     面談:心理カウンセリング/プチミーティング
cイバショと面談
     イバショ:レクリェーション(買物・カラオケ・旅行等)
     面談:心理カウンセリング/プチミーティング


★…規範・規律等からある程度自由な「変な大人」の支援が有効

3.就労支援
⑤就労面談
⑥短期就労実習
⑦長期就労実習
⑧短期アルバイト
⑨長期アルバイト
◎−
⑩契約社員/正社員














■居場所の可視化

居場所支援とは、表中「生活支援」支援のことだ。ここを少し補足しておこう。


1.     ブラックボックスではなくなった
 効果があるがブラックボックス化していた(その意味の言語化が困難だった)「居場所支援」が、やっと少しずつ可視化され始めた。
 1のアウトリーチ支援から3の就労支援に一足飛びに越えてもだいたいは失敗する。2の生活支援(つまりブラックボックス化していた居場所支援)の意味を言語化し可視化してこそスモールステップ支援の意義を人々は理解する。
 
2.     イバショと面談の並立
 居場所支援だけでは青少年は疲弊するだけで終わることがある。ここに、担当カウンセラーとの柔軟な面談体制(心理カウンセリングや短時間のソーシャルワーク等)を絡ませると、イバショ(一般化するためにカタカナ表記する)支援の効果がより上がる。

3.     イバショには3段階がある
 雑談(コミュニケーション)、調理や清掃(生活訓練)、レクリェーション(買物・旅行等)の3段階を踏んで、イバショ体験になる。この3段階は、「3歩進んで2歩下がる」の心構えで行くのがちょうどいい。
 またこのようにきめ細かく設定することで、たとえば発達障害等のハンディを可視化することができる。

4.     「変な大人」の存在が有効
 これは当ブログでもいつも言及している。詳しくは、変な大人は「複数」になる〜末尾に「変な大人論」のまとめリンク集をご参照を。

以上のような点を中心に10/6シンポジウムは、僕が冒頭に語ります(20周年記念シンポジウムのお知らせ参照)。前回書いた通り、まだまだ空席あり! しかも無料です。ご関心ある方はどうぞよろしくお願いします。★